No.26〜うつ病の薬物療法について(2)
2010/03/11

引き続きうつ病シリーズです。今回も引き続きうつ病の薬物療法について、Q&A方式にて、お伝えさせて頂きます。内容は、薬物療法の実際と副作用についてとなります。

抗うつ薬による薬物療法の具体的な内容について知りたいのですが?

抗うつ薬の投与方法は、薬剤の種類を問わず、概ね同様のスタイルがとられると考えて下さると良いと思います。原則的には、抗うつ薬の中から一つの薬剤を選び、その薬剤の出来るだけ最低用量から投与を開始していきます。当院では、一錠の半分から投与を開始することも珍しくありません。作用よりも副作用の方が、先に発現してくる可能性が高いこともあり、少しでも副作用の発現のリスクを減らすためです。その方針は、精神科のお薬と言うものに対するマイナスイメージを、無駄に増幅させないという目的にもつながるからです。

そして、まず何の薬剤を選択するのかは、画一的に行わず患者様により変えていますが、やはり多くの症例に対し前回詳しくお伝えしたSSRIを選択しております。特に強い有害作用が無ければ、その薬剤を漸増していくこととなります。最終的な用量としては、十分な改善を得られる用量まで増量していく方針を取っています。不十分な効果しか得られない用量で、維持してしまうことは絶対に避けるべきものと考えています。どの薬剤にも必要十分とされる用量設定がありますので、基本的にはその用量を目標にして増量していきます。必要十分な用量まで増量しましたら、4週間程度の期間を設け、効果判定をしていくのが一般的と思われます。当院では、症例の状態やそれまでの経過により、2週間から8週間の幅を持たせて対応しています。
また、最初に選択した薬剤で効果不十分な場合には、作用の仕方の異なる他の薬剤に変更して、同様に調整していきます。なお、SSRIであるとか、三環系抗うつ薬であるとか、大枠で同様にくくれる薬剤であっても、全く同じプロフィールではないとお考え下さい。その為、SSRIの中での変更ということも実際には行われます。当院では、三環係抗うつ薬と呼ばれる古いタイプの薬剤も積極的に活用しています。また、二種類以上の薬剤を併用して使用することもありますが、主軸となるものを設けていき、十分量を用いる薬剤は出来る限り一種類にするよう心掛けています。
そして、十分な改善を得た後も、その用量のまま6ヵ月間程度の期間は継続投与していくのが原則的となっています。回復まで比較的長期間を要した症例やストレス要因が持続しているような症例では、一年間以上継続することも珍しくはありませんし、再発を繰り返している症例では、長期的に投薬していくことにもなります。また、中止する時は開始時と逆で、漸減していく形を取ります。もうすっかり回復したからと言って、勝手に中断してしまうことは厳に慎んで下さるようお願いしています。風邪と同様に、うつ病でもこじらすことにもつながりかねませんから。うつ病に罹患していた自分を早く忘れ去りたい、もう治ったと早く思いたい、という心情は解りますが、くれぐれも医師の指示通りに治療を終了するよう望んでいます。もし、怠薬や飲み忘れをされた場合には、正直に医師に申告して下さるようお願い致します。精神科の薬物療法においては、半錠単位の細やかな用量調整(さじ加減)が要求される面もあり、的確に服用量を把握しておく必要があるからです。



抗うつ薬に認められることの多い副作用にはどのようなものがあるのでしょうか?

比較的頻度の高いものには、以下のようなものが挙げられます。口渇(高頻度)、便秘(これも用量依存的に高頻度で出現)、立ちくらみ眠気(徐々に慣れることは多い)、頻脈、発汗過多(異常な寝汗など)、吐き気(前回詳述したSSRIに特に多い)、体重増加(早い段階から程度の差はあれ出現)、などがあります。他には、手の震えや筋肉のこわばり、倦怠感、頭痛、排尿障害、めまい感、肝機能障害、性機能障害(射精遅延や女性を含め性欲減退・オルガスム障害を来たす)等も時に出現します。
また、精神症状として現れるものとして、躁状態を生じる可能性(元々、診断学的に躁うつ病のうつ病エピソードであった場合ですが)や、アクチベーション・シンドロームと呼ばれる現象を来たすリスクはあります。

◎アクチベーション・シンドローム(賦活症候群)とは◎


服薬早期に出現することが多く、20歳台前半までの若年者に起こりやすいとされ、不安やイライラ、落ち着かなさ、易刺激性、易怒性、興奮、神経過敏、などを認める現象です。更には、希死念慮を有する症例では自殺行動を引き起こすリスクがあるとされています。この現象はどの抗うつ薬でも可能性はありますが、効き目の早いSSRIによるリスクがより高いと言われています。しかし、実際的には専門医が処方する範囲においては、そのリスクを最小限にすることは可能と考えており、当院ではこれまで特に問題となった症例はありません。

なお、上記の副作用が出現したとしても対処可能なレベルであることは多く、効果・必要度とのバランスを図りながら投与していくことになりますし、特に重篤なものや後遺障害を来たすようなものは基本的に見られません。また、うつ病の薬物療法上、多少の副作用発現を受け入れる用意は必要であろうと思われます。


No.25〜うつ病の薬物療法について(1)
2011.08.11

引き続きうつ病シリーズです。今回からは数回にわたり、うつ病の治療について情報発信させて頂く予定です。まず、治療上不可欠と考えてよい薬物療法について、二回にわたりQ&A方式にてお伝えさせて頂きます。


うつ病(うつ状態)の治療で一番重要なものは、やはりお薬なのでしょうか?
その通りです。精神医療として考えた時に、基本的には薬物療法はうつに対して欠くことの出来ない治療法となります。ですので、まず心に効くというようなイメージしにくく怖く感じるお薬を、自ら進んで欠かさず服用するという習慣を身に付けて頂くためのアプローチから治療が始まることも少なくはありません。そのような内容に限らず、薬を巡る医師とのコミュニケーションは重要なものとなりますので、副作用や効能感などの服薬に係る自己感覚を大切にして下さると良いでしょう。それらを率直に医師に伝えることは重要ですし、その行為を妨げる状況が診療場面にあるようなら医療機関の再検討をするべきかもしれません。なお、薬物療法は基本的に必要不可欠なのですが、お薬さえ服用していれば比較的簡単に完全に治ってしまうという過大な期待は非現実的である、ということも十分承知しておく必要があります。さて、薬物としては、主に抗うつ薬が選択されます。うつ病(うつ状態)の治療の為に用いられる有効性の高い薬が、現在では様々な種類にて存在しています。他の治療法と比較すれば、確かに作用の確実性は比較的高く、一定の期間において効果発現が期待できるという点において、優れていると考えられます。全般的には睡眠薬や安定剤(抗不安薬)と比較して、慣れ(耐性)や依存(簡単に止められない)が形成されにくいということが言えます。とは言え、自己判断での急な服薬中断はリスクを伴いますので注意して下さい。

うつ病に効くと言っても、無理やり薬で頭の中を変えられてしまうのも怖いような。
性格まで変えてしまえる訳ではありませんし、覚せい剤のような効き方でもありません。自然と本来の元の脳の機能状態に戻してくれるだけのことです。脳内に存在しているセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなどの精神作用物質(神経伝達物質)のバランスを整えたり、適切な働きが出来るように促したり等、脳の生化学的な環境・働きを調整してくれる促進剤みたいなものなのです。脳内に存在しない物質を注入して無理やり働かすということはありません。あくまでも、本来のあなたらしさの実現の為の一助になれれば良い、という程度の薬理作用であるとお考え下さると幸いです。

抗うつ薬の中には、どのような種類があるのですか?
大きく三つに分けられます。第一の世代は、三環系抗うつ薬と呼ばれ、大まかに言って、効果は高いけれども副作用も強い傾向がある、という一群。第二の世代は、四環系抗うつ薬と呼ばれ、効果は減弱傾向で不十分と言わざるを得ない面が認められるものの、副作用も緩和されている傾向のある、という一群。第三の世代は、新世代とも言われ、より洗練された薬理作用機序を持った一群となります。現在のうつ病(うつ状態)における薬物療法の第一選択薬は、新世代のものとなっており、その代表がSSRI(セロトニン選択的再取り込み阻害薬)と呼ばれる薬です。実際に、このSSRIをまず投与していくことが非常に多くなってきるのが現状です。他の新世代の薬であるSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)やNaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)も次の選択肢として比較的多く投与されています。しかし、適応の広さや作用の確実性などからSSRIの処方頻度はより多く、うつ病に限らず、パニック障害、社交不安障害、強迫性障害、過食症、月経前不快気分障害、心的外傷後ストレス障害、衝動性の緩和等々にも効果が期待出来ます。また、これら列記した障害状態は、うつ状態を合併しやすいこともあり、臨床的には有用性が高くなっています。

そんなSSRIって、どのような薬なの?
商品名として挙げるとパキシルルボックス・デプロメール及びジェイゾロフトがあります。
それらは、一日1〜2回投与で済み、至適用量までの幅が比較的少なく用量調整が行いやすい薬でもあります。次回号に述べる第一世代における副作用が軽減されている点は確かにありますが、全く存在しないことは殆どなく、副作用が出てもその程度が比較的軽いという評価です。また、いくつかの発現しやすい問題点はあります。
比較的頻度の高いものとしては、眠気と吐き気があります。服用し始めに多く認められる吐き気ですが、胃の重大な障害に結び付くものではなく、主に一過性で服用当初の1〜2週間程度以内には消失することが多いです。
眠気も徐々に慣れてきますが、服用を継続するに当たっての問題としては、逆に不眠・多夢や便秘及び下痢(ジェイゾロフトにおいて)、射精遅延などの性機能障害が挙げられます。
また、パキシルは服用を中止する際に、めまいや痺れ感などの身体的違和感を生じやすく、かなりゆっくりと少しずつ減量する必要性があります。
しかし、これは医師の指示通りに減量して下されば回避可能な点ではあります。なお、同じSSRIと言っても、上記の三剤各々にある程度異なる作用プロフィールがあるため、それぞれを試みる意義はあります。
ちなみに効能の高さと反応の速さから国内でも世界的にもパキシルが最も頻用されている状況です。最後に、新薬であるが故に薬価(薬の値段)が高く設定されていることも付言しておきます(ルボックス・デプロメールは比較的安い)。。

SSRIさえ服用すれば大丈夫そうですね。内科でも出してもらえそうなので構わないでしょうか?
確かに、うつ病に罹患した人が一番初めに訪れることが多い診療科でもある内科医により、SSRIが投薬されるケースは少なくはないものと思われます。そのこと自体は、うつ病の早期治療やかかりつけ医の重要性等を考えると好ましいことと考えています。
ただ、先述しましたように薬を投与すれば治るというシンプルなものではないというのが実情です。そのため、2カ月間程度の一定の期間を十分な用量で服用しても好転しない場合には、勇気を持って専門医への紹介をお願いしてみるべきでしょう。
No.24〜うつ病になりやすい性格について(2)
2011.08.11

引き続き、今回もうつ病(うつ状態)の病前性格についてお伝えしていきたいと思います。まずは、前回と同様に性格パターンを箇条書きにさせて頂き、それらについて説明を加えさせて頂きます。


◎ うつ病(うつ状態)の病前性格 ◎
@ 他者配慮性が高く自己犠牲的 ⇔ 協調性が高く献身的
A 人との円満な関係の維持に腐心 ⇔ 和を乱さず従順
B 他者に借りを作らないことを最優先させる構え ⇔ 自己中心的ではない
C 弱力性優位(気が弱い) ⇔ 優しくて穏やか
D 自尊心が高く弱音が吐けない ⇔ 粘り強い
E 自信を持てず対人的に過敏 ⇔ 特になし
F 一度起こった感情が長引きやすい ⇔ 特になし
前回号同様、以下は上記のリストの総括を中心に、多少の説明を加えさせて頂きます。繰り返しになりますが、このような性格を有しているからと言って、必ずうつ病になる訳ではありませんので、その点は誤解のないようにお願い申し上げます。

@今回挙げさせて頂いた項目は、前回と比べて、その性格傾向の持つ利点がどちらかと言うと少なく、生きる上で精神的苦痛や葛藤、現実的困難さを伴いやすいと思われるものを列記しました。これも前回の表記同様にプラスの側面を⇔の右に記してみましたが、その中身は見せかけのものに過ぎない可能性を秘めているという点があることを指摘しておきたいと思います。加えて、利点を探しにくい項目も存在していますから。そのため、今回提示した性格傾向をお持ちの方は、自分の持つそれらの傾向について一度見つめ直してみることをお勧めします。但し、今回も過度に認められる場合には気を付けましょうということになりますが。
A今回はある面で重複する内容があると考えています。それは他者配慮性という言葉に集約されるのではないかと思われます。要するに、「他者のための存在」である私になってしまっている人は要注意です本質的な実態は自己満足のため、または自己存在価値を維持するための他者配慮が見られる人は、まさに他者に規定されてしまう存在ということが言えるでしょう。他者あっての自分では、本来コントロール不可能な環境因子の変化や喪失が即自己の崩壊や喪失につながりやすいことから、うつ病との関連性が高くなるのです。自分を傷つけるのもいたわれるのも褒めてあげられるのも認めてあげるのも最終的に自分自身しかいない、という真理を知ることが大切でしょう。

Bまた、過度に自己抑圧的であるとも言える訳で、喜びも含めて怒りや憤り、悲しみの感情を溜め込んでしまうことが多大なストレスとなるのです。そこには必ず積み重なった欲求不満が存在することでしょうから。特に怒りや憎しみ、憤りの感情を強く深くこころの底に眠らせている人は、うつ病を発症した場合に回復に難渋する傾向があります。怒りや欲求不満などのネガティブな感情を否認せずに、存在しても良い感情として認めてあげ、直接関係する他者以外の者に対してでも構わないので、愚痴をこぼす等の感情の表出をしていく必要性があると考えます(心理カウンセリングの機能の一つはそこにあります)。



現代のうつ病(うつ状態)に認められる新しい病前性格◇

これまで述べてきた病前性格は、比較的かねてから指摘されてきたタイプであるのですが、最近の傾向として、それらに該当しない新たな性格傾向を持つケースが増えていることが言われています。それらは成人期早期の段階でうつ状態に至りやすく、対人関係上の問題を伴う場合が多く見られます。以下のような性格傾向を持つ人は、治療への動機付けが困難な場合が多く、性格要因の持つ特異性から難治となる傾向が比較的高くなります。

 まずは、未熟な性格タイプと言われる傾向です。自己中心的でわがまま、自主性に乏しく依存的、欲求不満や思い通りにならないことに対する耐性が低い、等々の傾向を持つ人となります。お気付きのように、これまで指摘されてきた病前性格とは全く逆の傾向におけるうつ病発症が増えてきているのです。

 また、現実逃避傾向の強いタイプも挙げられます。インターネットやゲームなどバーチャルな世界に費やしている時間が長い人などに、比較的多く見られるようです。逃避型抑うつという用語が存在しており、詳述は紙面の都合上行いませんが、仕事など責任や義務を生じることに対しては抑うつを呈してしまうが、遊びや趣味活動には全く支障がない、というようなケースがあります。

 最後に、傷つきやすい病的な自己愛に基づくタイプがあります。この病理は自己愛性人格障害のケースを一部含んでいます。表面上は自己愛が肥大しているにも拘らず、それを支える内面は非常に脆く壊れやすいものとなっている人がいます。批判や評価に敏感で些細なことで立腹し、思い通りにならないと引きこもってしまう、という状態が認められます。なお、このタイプは他罰的(他者のせいにする)なため、治療困難性が高いのです。
No.23〜うつ病になりやすい性格について(1)
2011.08.11

引き続き、うつ病シリーズです。今回からはうつ病(うつ状態)の病前性格についての内容を二回にわたりお伝えしていきたいと思います。まずは、性格パターンを箇条書きにさせて頂き、それらについて説明を加えさせて頂きます。




◎ うつ病(うつ状態)の病前性格 ◎

@ 真面目で几帳面・凝り性 ⇔ 信頼感・信用厚い

A 義務責任感が強く完璧主義 ⇔ 仕事熱心で勤勉

B 高い要求水準を持つため目標達成に対して自分に厳しい ⇔ 努力家

C 「調子が悪い自分」というものに対する否定意識の強さ ⇔ 忍耐力

D 秩序を重んじ執着心が強い ⇔ 律儀で約束を守る

E 融通が利かず柔軟性を欠く ⇔ 一貫性

F 順調希求姿勢が強すぎる ⇔ 上昇志向

G 道徳面での過度の良心性・強い正義感 ⇔ 立派

H 強迫的で自己拘束性が強い ⇔ 思慮深く慎重

 以下は上記のリストの総括を中心に、多少の説明を加えさせて頂きます。ちなみに、このような性格を有しているからと言って、必ずうつ病になる訳ではありませんので、その点は誤解のないようにお願い申し上げます。


@上記の病前性格リストをご覧になって、お気付きの点はありませんでしょうか?その殆どの項目が、非常に優れた、好ましい、しっかりした、褒められるべき、立派で芯が通った、というような形容詞がついても、ある意味では間違いではない性格と言える点ではないでしょうか。要するに、スーパーマン的なパーフェクト人間であるべく、意識するしないに関わらず、振舞っていたり頑張っていたり志していたりする人ほど、うつ病への扉を叩きやすいということなのです。そのため、今回挙げた傾向が過度である人は注意が要るということです。この逆を推奨するということとは全く別のことです。なお、⇔の右に記している言葉は、それらの性格傾向の利点を挙げてみたものです。それを見て下さればお分かりのように、これらの性格傾向があるとしたら大切にして欲しいと思います。きっと人から信用厚く頼りにされ、社会的に有能で、活躍をしている人も多いことでしょうから。但し、その期待・依頼が過度のプレッシャーとなり、その傾向に関する自分のアクセルから足を踏み外すことが出来なくなっている人もいることでしょう。今回挙げた内容の多くは、そのアクセルとブレーキのバランスを良く保ちながら、いい加減になるようにセルフコントロール出来るよう心掛けて欲しいというものとなります。



Aこういう性格傾向であるが故に、うつ病(うつ状態)であるにも拘らず、「自分の性格が悪いからである」「自分の考え方がいけないだけだ」「甘えているだけではないか」「もっと努力すればきっと何とかなる筈だ」「自分がこんな病気になる筈がない」「こんな状態が続いたら負けだ、何とか自分の力で勝たなければ」「周りに迷惑をかけてしまい申し訳ない」などと考えてしまう傾向が高いと言えます。“努力せよ”“強くあれ”“もっともっと”というメッセージを自分自身に潜在的に発信していないかどうか観察してみて下さい。



Bいわゆるワーカホリックのタイプもこれに該当します。人生や生活における「あそび」の部分を大切にする事を意識されると良いでしょう。「あそび」が無いと折れたり切れたりすることになるのですから。スケジュールを立てる時に、優先的にまず自分のための時間・遊びの時間から組み立てるようにすることも一つの手段となることでしょう。



C前記の性格項目の中で、完璧主義などはよく指摘される傾向と思われますが、特に重要と考えられるものとして、秩序性と順調希求姿勢を挙げたいと思います。秩序や順調さを重視している人は、不意不測な変化や混乱した状況に対する適応力が低いということが言えますし、逆境への抵抗力も弱いと考えられるからです。これまでの自分に囚われない柔軟な発想を持つことや、ある意味で開き直ることが出来る能力を持つということが大切と思われます。


D専門的には、テレンバッハのメランコリー親和型性格や下田の執着性格などが上述した性格に該当する代表的なタイプとされており、うつ病と関係性が高い病前性格として評価を得ています。さらに言えば、今回提示した性格傾向というのは、ある側面で典型的な日本人気質と呼んでも良いものと思われます。


E始めに箇条書きにした事柄以外にも、マイナス思考をする傾向が強く悲観論者であるとか、内省過剰で後ろ向きに考えるタイプ、といったものも挙げられるでしょう。なお、うつ病の原因を述べてきた前回分までには記しませんでしたが、性格を論じる上で、その人の生育歴(生育環境)について考えることも大切となります。生育歴は原因の一つとして挙げても良かった事柄かもしれません。しかし、大きなテーマになると考えたため避けた次第ですが、少しだけ簡単に触れさせて頂くとすれば、母性や父性の欠如が背景因子の一つになるものと思われます。

母性の欠如は、安全保障感や基本的信頼感および素直に愛し愛される能力の欠如に関連しますし、父性の欠如は背骨の無いストレス耐性の低い精神構造を形作ることに関連することでしょう。
No.22〜うつ病の原因について(3)
2011.08.11

引き続き、うつ病シリーズです。今回はうつ病(うつ状態)になる原因についての最終回となります。さらに箇条書きの続きの部分として記していきたいと思います。



Q:まだまだ他にも原因はあるのでしょうか?

A:前回お伝えしたように、原因は個々のケースで様々に異なるものです。また、これまでに挙げてきた原因がいくつも重なり合っているケースもあります。

I 役割の変化(異動、昇進、進学、結婚、出産、引退、等)

役割の変化には、大変多くの事象が含まれていると思いますので、全てをお伝えするのは困難ですが、重要な点を挙げるとすれば以下の二つになるでしょう。一つは、社会的役割における変化である仕事における異動や昇進、転職、引退などです。これらは臨床上も非常に遭遇することの多い原因と言えます。昇進のような喜ばしいと考えられる事柄においても、役割の複雑化・責任の増大等の理由により原因となるということは重要な点と思われます。特に、昇進に関しては、技術的・専門技能職的な労務により評価されていた人が、人を管理するという役割を担うことに大きなストレスを感じるというケースが増えているように思われます。また、それらには現代の社会的要因が大きく影響しているものと考えられます。年功序列制の崩壊や能力評価による昇進、リストラや会社の吸収・合併に伴う組織の大きな変化や異動、転職が普通の選択肢になってきている現代の流れの中での職業選択に係る葛藤の増大、団塊世代の大量定年退職による目標喪失状態、などなどの現象が背景に存在しているものと考えています。

もう一つは、ライフステージにおいて起こりえる変化(ステップ)があるでしょう。これには、進学、大人になること(親からの自立、成熟した自己の確立、などの様々な定義が可能と思われますが)、結婚や妊娠・出産、老年期の迎え(前回までに述べたような子供の独立、身体機能の変化など)、等が挙げられます。この中の自立に関しては、ライフステージ上における大きな一つの危機段階と考えられています。統合失調症を始めとする様々な精神障害の発症リスクの高い時期ともされています。うつ病も例外ではありません。また結婚は、夫婦関係や親子関係における複雑な役割を担い始めるスタートとなるという意味で、大きな転換点となるでしょう。さらに、特に出産に関してはうつ病との関係性が強いとされており、母になるという心理的なもののみならず、女性ホルモン系の急激な変化によるうつ病(うつ状態)の発現の可能性があるのです。その代表的なものとして、マタニティブルーズと産褥うつ病があります。


マタニティブルーズ 産後直後の三日目から一週間に起きる軽度のうつ状態を指し、10〜25%程度の頻度で見られるとされ、涙もろさが特徴的です。治療の必要性はなく、概ね二週間程度の経過で自然治癒するものです。




産褥うつ病 産後二週から五週目の発症が多いとされるもので(本来の産褥期とは産後六週から八週を指す)、発症頻度は5%程度とされます。こちらは通常のうつ病と同様の経過や症状を呈し、専門医による適切な治療を要する状態となります。放置すると、無理心中の原因にもなりかねないので注意が要ります。


J 遺伝的要因(一部のうつ病において)

脳の一次的な機能障害として現れる形で精神病としてのうつ病が存在することも事実です。その場合には、ある程度の遺伝的要因が認められます。とは言え、遺伝性が明らかな疾患と言うことではありません。但し、近い親族に複数のうつ病罹患者や一人でも躁うつ病罹患者が存在する場合には、いくらかのリスクの増大があるものと考えられています。

また、かつてのうつ病エピソードの存在は、今後の人生におけるうつ病発症の危険率を高めることにはなります。診断基準を十分に満たすようなうつ病へ一度罹患した人の再発のリスクは50%近いとも言われているからです。さらに再発を繰り返す毎に、そのリスクは上昇していき、3回目以上となるとその後も反復を継続する可能性は100%近くになります。また、そのうつ状態の程度も、より重症化・長期化する傾向が見られます。

K アルコールや薬物によるもの

アルコール依存と判断される状態でなければ、飲酒が直接的にうつ状態の原因となる訳ではありませんが、うつ状態の時は薬物療法中という観点からも飲酒は出来るだけ控えるべきです。大量の飲酒は抑うつを引き起こす可能性を十分に持ち、そのような症例では飲酒を止めるだけで抑うつが改善するという現象が見られます。アルコールは立派な精神作用物質であるという認識が重要でしょう。

また、薬物としては以下のようなものが原因として挙げられます。インターフェロン製剤(肝炎の治療で使用される薬剤で自殺の副作用もある)、ステロイド製剤(躁状態や不眠も引き起こす可能性あり)、シメチジン(消化性潰瘍薬)、インドメタシン(消炎鎮痛剤)、β遮断薬(降圧薬)、等々が主なものとなります。